日本人も間違える「~たり」の用法 と補助動詞「~いる」の用法①

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今回のテーマ

今回は前回の記事の例文にある文法的間違いについて解説します。

その例文はこちらです。

「髭剃り用の剃刀と綿棒が無かったなど、ごみ捨ても捨てられて無い所が有ったり、今一つって感じでしたね。」

どの箇所に間違いがあるかわかりますか?


その箇所とは…

「捨てられて無い」の「て無い」と「有ったり」です。
(ただ厳密には「有ったり」は間違いではないかもしれませんが、この例文はあまり美しくないです。さらにこの形は正式な文章に使えません

なぜ間違いであるかわかるでしょうか。

今回は「たり」について解説します。


解説

「たり」の用法

「たり」

①(原則「~たり~たり」の形で)原則同類の動作や状態が繰り返して、ある一定期間に起こる意味を表します。 

 A:単純に動作や状態を並列して述べる。
 B:反対の意味を二つ並べて、その動作や状態が交互に行われることを表す。

②( 原則「~たり~たり」の形で、しかし、しばしば「~たり」の形で)同種の事柄の中から、ある動作や状態を例として挙げ、さらに他の場合もあることを想定させます。

例文

「警察車両が行ったり来たりしている。」
「原材料費が高かったり、安かったりで安定しない。」
「泣いたり、笑ったり(する)。」


「休日はテレビゲームをしたり、オンラインゲームをしたりして過ごします。」
「にやにや笑ったりして気持ち悪い。」
「たまには上手くいったりすることもある。」
「道路で車に轢(ひ)かれたりしたら大変だ。」 *通常「轢く」は平仮名で書きます。


①と②の意味は実は曖昧です。文脈によって同じ文章がどちらの意味にもなり得ます。さらに①の意味も全体的に見れば実は②のような「例」である場合も多いのです。

「原材料費が高かったり、安かったりで安定しない。」 を例に説明しましょう。
①の意味だと、ある製品の価格の不安定さを規定するのが原材料費が原因であることが強調されるのです。しかし、実は人件費や輸送費も、ある程度原因かもしれません。ですから強調されたといえ「原材料費」は価格の不安定さの一つの例とも解釈できるのです。

そして本記事冒頭の誤りある例文は②の意味に関連します。


「たり」の用法の解説

では個別の解説をしましょう。

①の解説
この「たり」は複数使わなければなりません。

したがって、以下の2文では下の方が正しいです。
(誤) 泣く人や笑ったりする人がいる。
(正) 泣いたり笑ったりする人がいる。

日本人は上の方の誤った文章をよく書きます!日本人が書いた文章だからといってまねをしないようにしましょう!


では、解釈が難しい②の解説をします。


「休日はテレビゲームをしたり、オンラインゲームをしたりして過ごします。」
この例文は問題ないですね。①と似ていますし、単純に休日の過ごし方の例を示しています。もちろん休日に他の活動もしているでしょうから、「他の場合を想定させる」という意味にも合致します。


「たまには上手くいったりすることもある。」
これはどうでしょうか。
「たまには上手くいく」のですから「失敗する」ということも暗示しています。②を説明する好例です。


これらはどうでしょうか。
「にやにや笑ったりして気持ち悪い。」
「道路で車に轢(ひ)かれたりしたら大変だ。」

「気持ち悪い」と思う感情の原因の一例として「にやにや笑う」が挙げられ、他の要因も想定させようとしています。どういう要因が考えられるでしょうか。「服装が汚い」、「落ち付きがない」等でしょうか。

歩道を含めて道路には様々な危険があります。「車に轢かれる」だけではなく、「段差につまずく」、「人にぶつかる」、「スリに財布を盗られる」等でしょうか。

このように「書かなくても想定される例」はさまざま挙げられます。このように考えるのは正しいです。

しかし、日本人の実際の会話では、このような2文を言った場合、しばしば書かれていることだけが原因の場合があり、「たり」が意味のない語尾と化している場合があります。
すなわち、

「にやにや笑ったりして気持ち悪い。」 ≒「にやにや笑って気持ち悪い。」

「道路で車に轢(ひ)かれたりしたら大変だ。」≒「道路で車に轢かれたら大変だ。」

これは、「にやにや笑っている」ことが「気持ち悪い」ことの主たる原因であり、他の原因はほとんど影響していないと発言者が認識している表れだからです。

大人が歩行者であれば、「車との衝突」が主たる危険という認識が強く、特に他の危険はあまり想定していないことを表しています。

この最後の「たり」の解釈の説明が難しいと思われます。これらを「婉曲的表現」とも解釈して差し支えありません。



例文の解説

ここで、冒頭の例文を見てみましょう。


「髭剃り用の剃刀と綿棒が無かったなど、ごみ捨ても捨てられて無い所が有ったり、今一つって感じでしたね。」

この「有ったり」は結局、「有って」とほぼ同じ意味だということが分かると思います。もちろん、他に何かが想定されいるという解釈も正しいですが、書き手にとってはあまり重要ではないのでしょう。

さらに「~たり~たり」の形に直せます。すると文章が美しくなります。

「髭剃り用の剃刀と綿棒が無かったり、ごみ捨ても捨てられて無い所が有ったり、今一つって感じでしたね。」

一回述べましたが、「~たり」一つだけの文章は婉曲的、すなわち、遠まわしで曖昧な表現なので、公文書や論文等の正式な文章には使わないほうがよいでしょう。
「~たり~たり」のように複数回使う場合は婉曲ではないので使えます。

まとめ

解説が長くて読むのが大変だと思います。疑問・質問等ありましたら、遠慮なくコメントしてください!!