今回のテーマ
ある中国人から質問がありました。
もぐる と くぐる の違いは何ですか。
今回はこの2語の違いについて検討したいと思います。
解説
「もぐる」と「くぐる」を漢字で書くと?
はじめに「もぐる」も「くぐる」も漢字で書くと「潜る」と成り、同じ漢字ですね。
日本では、「潜」という漢字は日本国が定めた書けるべき漢字の1つです。そして、その読み方の「もぐる」は読めるのが望ましいとされています。
一方「くぐる」は通常は読めなくてもいいことにされています。おそらく通常の文章では誤解を防ぐために平仮名で書かれるでしょう。
「もぐる」と「くぐる」の例文
では、「もぐる」と「くぐる」の意味と例文を確認してみましょう。
「もぐる」
①水の中に体全体や機体全体を入れること。潜水する。
「海にもぐる。」、「水中にもぐる。」、「水深50メートルの海底にもぐる。」
②物の中や下に入り込む。もぐり込む。〔意図的な動作にも、意図的でない動作にも用いる。〕
「もぐらが土の中にもぐる。」、「布団にもぐる。」、「床下にもぐる。」、「電車は中野(東京にある町)付近で地下にもぐる。」、「こたつにもぐる。」
③人に見つからないように身を隠す。特に権力を持った者からの監視や捕縛を避けるために姿を消す。潜伏する。
「組織の命令で地下にもぐる。」、「犯人はどこにもぐったのかわからない。」
「くぐる」
①物の下や隙間などを通り抜ける。くぐり抜ける。
「門をくぐる。」、「鳥居をくぐる」、「暖簾をくぐって店舗に入る。」、「トンネルをくぐる。」
「長い停滞の時代をくぐって再登場する。」(時間に転用した例)
②水に入って、そのまま水面下を進む。潜水する。
「水をくぐって対岸にたどり着く。」、「海にくぐって魚貝をとる。」
③困難な事態や危険を辛うじて切り抜ける。くぐり抜ける。
「戦火をくぐって逃げる」、「監視と暴力の時代をくぐって生き延びる」、「炎をくぐって脱出する。」、「砲煙弾雨の下をくぐる。」
④隙を狙って事を行う。くぐり抜ける。
「法の網をくぐる。」、「監視の目をくぐる。」
以上のように「もぐる」と「くぐる」の意味をまとめました。
「もぐる」①の意味と「くぐる」②の意味が似ていますね。この点が混乱の点でしょう。
では、この意味の違いを検討してみましょう。
「もぐる」と「くぐる」の違いは?
結論から言うと「もぐる」①と「くぐる」②は大体同じ意味です。
違いは何点かあるでしょう。
はじめに、「もぐる」は単純に何かの中に入るという意味ですが、「くぐる」には「中に入る」という意味だけではなく、「その中を通り抜ける」という意味を持つことが出来ます。
これは「門をくぐる」という表現を考えればわかりやすいでしょう。文脈にも拠りますが「もぐる」は「通り抜ける」というニュアンスが薄く、「中に入り込む」というニュアンスしかないでしょう。
「もぐる」は助詞の「に」が付きやすく、「くぐる」は助詞に「を」が付きやすいです。
すなわち「水にもぐる」、「水をくぐる」と書く場合が多いです。
「を」は「移動の意を表す動詞に応じて、動作の経由する場所を示す」ため、「通り抜ける」というニュアンスがある「くぐる」は「を」とりやすいです。
「に」は「移動先や設置の場所や方向を表す」ため、「物体の中に入る」というニュアンスの強い「もぐる」は「に」をとりやすいです。
もちろん「水をもぐる」、「水にくぐる」といえる場合もありますが、頻度が少なく、言い辛いため今回の記事では説明しません。知りたい方がいればコメント欄に知りたいと書いてください。
最後に実用する面において重要な違いがあります。
実は、日本人は「くぐる」という単語に「もぐる」という意味があることを知らない場合が多いと思われます。ですから、皆さんが「くぐる」を使うと「もぐる」と日本人に修正されるかもしれません。「もぐる」を使う方が勘違いは少ないでしょう。
まとめ
まとめとして、例文使って解説します。
「水をくぐって対岸にたどり着く。」(水の中を通り抜けて、というニュアンスがはっきりしている)
「水にもぐって対岸にたどり着く。」(「通り抜けて」というニュアンスは無いが、もぐるということは、水の中に隠れながら進むという場合が多いので、自然と「水のなかを通り抜けて」という意味になる。)
「海にくぐって魚貝をとる。」
「海にもぐって魚貝をとる。」
以上、「もぐる」と「くぐる」についてまとめました。質問・疑問等がある場合は遠慮なく連絡してください。