今回のテーマ
文法的に正しい言い回しであっても、実際に書いたり、話したりすると話の聞き手が話し手に対し好ましくない印象を持つ場合があります。
そのような適切な言葉遣いは文法の教科書には載っていません。
第三回も 無意味な言葉を減らす工夫について語っていこうと思います。
渡辺由佳の 「会話力の基本」( 日本実業出版社より 2011年出版 )を引用し、原本よりも詳しい解説を行います。
余計な「的」を外す。
始めに2つの例文AとBを引用します。
A
上司からA案とB案のどちらがよいか尋ねられた際、
「わたし的には、A案だと思います」
渡辺由佳, 2011 「会話力の基本」日本実業出版社 p.15.
B
私は、キャッチコピー新鮮なので、A案がいいと思います」
渡辺由佳, 2011 「会話力の基本」日本実業出版社 p.15.
「わたし的」は辞書には載っていない最近の言葉です。
「わたし的」、「僕的」というと、「わたしは」や「僕は」というのと比べて直截に言うのを避けた言い方です。
「わたし的」は間違いですが、「私的」は「してき」と読んで正しい用法なので理解しておいてください。
「わたし的」の解説
「わたし的」等は、渡辺によれば、自分の意見を少々遠慮がちに伝えたいときに使われると指摘されています。
しかし、確かに主張の強さを抑えるという面もありますが、現実的には自分の意見を述べる際に日本人に多用されます。
自分の意見を述べる際は「わたし的」などと言わずに、「私は」と言ったほうが美しくてスマートです。
さらに説得力も増すでしょう。
主張の強さを抑えるには
もし、「わたし的」のように、自分の主張の強さを抑えて発言したい時には、「としては」を使いましょう。
例文
「私としては、A案がいいと思います。」
これは主張の強さを抑えている、ぼかした表現です。
他にもこのような言い方があります。
「個人的には(としては)、A案がいいと思います。」
「私的(してき)な意見としては、A案がいいと思います。」
「私に関しては、A案がいいと思います。」
言葉の変化に関する当ウェブサイトの私的見解
もし、あなたが美しく聞こえる日本語を話したいと思うのであれば、正式な会話をする場面では「わたし的」を使うのはすぐ止(や)めましょう
この「わたし的」という言い方は現在の若い世代に多用されていて、正式な言い方とはなっていません。
言葉は時間の流れとともに変化するというという主張もあります。
しかし、学校や教科書から習う文法というのは、膨大な研究が背景にある、体系化された理論を元に構成されていて、日本語の言い方として自然(natural)である形を示しています。
そのような体系化された理論と比べると、「わたし的」は何の脈絡も無く、つまり、文法的根拠に薄いので、不自然に聞こえるのです。
美しく聞こえる言語というのは、理論的に矛盾の無い文法に基礎を置いた表現であると言えますから、「わたし的」という表現は美しくないのです。
補足情報
「的」という表現は、「ある性質をもった」や「ある分野にかかわる」という意味があり、「文学的表現」、「政治的な発言」、「大陸的風土」などのように使われます。
実は「的」のこのような使い方は中国語が元になっているのです。
中国語において「的」は日本語の「の」の意味に当たる助辞ですが、日本の明治時代に洋書の翻訳において、英単語の語尾の「tic」等の形容詞の訳語に「的」を当てはめたのが使用の始まりです。
例
systematic →組織的・体系的
まとめ
「わたし的」という表現は公的ば場面では使わないようにしましょう。日本人が使っていても、真似をしないようにしましょう。
仲の良い友達との会話では問題は無いと考えられるので、臨機応変に使い分けをしましょう。
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